大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 平成5年(ネ)139号 判決

控訴人

村瀬孝司

右訴訟代理人弁護士

南健夫

被控訴人

森下濤翔こと

森下千尋

右訴訟代理人弁護士

三好泰祐

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、金二〇万円及びこれに対する昭和六〇年八月一一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被控訴人は、被控訴人が発行する「プロモーションニューズ」のプロモーションフォーラム欄に別紙記載の内容の謝罪広告を同別紙記載の掲載条件で一回掲載せよ。

四  控訴人のその余の請求を棄却する。

五  控訴費用は、第一、二審を通じ、これを一〇分しその三を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の各負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年八月一一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人は、被控訴人が発行する「プロモーションニューズ」のプロモーションフォーラム欄に原判決別紙記載の内容の謝罪広告を同別紙記載の掲載条件で二回掲載せよ。

4  控訴費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二  事案の概要

次のとおり補正するほか、原判決書の「事実及び理由」欄第二記載のとおりであるから、これを引用する。

一  二枚目裏四行目「代表者団体」を、「代表者・団体」に、同六行目「また」を「又」に、同八行目「不適である。」を「不適である……。」に改め、同九行目「と掲載し、」を削り、三枚目表三行目「掲載した」の下に「(いずれも原文のまま)」を加え、同六行目「等と掲載し、」を削り、同八行目「恐喝」を「脅喝」に改め、同末行「と重ねて掲載し、」を削り、同裏三ないし五行目「未払いであったことがその発端となり」と掲載した。」を「未払であったこと(氏は販売業の許可をもたない。)がその発端となり」」に、同六行目「引口孝司」を「「引口孝司」」に、同七行目「クラブ会員」を「クラブの役員」に、同行「村瀬孝司」を「「村瀬孝司」」に、同八行目「加藤正夫」を「「加藤正夫」」に、同九行目「あるいは加藤孝司を」を「或いは「加藤孝司」を」に、同一〇行目「三つの姓」を「三つの牲」に、同一一行目「口実」を「「口実」」に、四枚目表初行「掲載している」を「掲載した(いずれも原文のまま)」に改める。

二  四枚目裏末行「池内事務局長」を「本件クラブの事務局長池内好雄」に、五枚目表二行目「信頼するにつき」を「信じるにつき」に改め、同行の次に、改行して、「すなわち、原告が指摘する、(一) 前記(一)の(1)は、団体の要職に就いている者に対する一般論を述べたもので、特に原告を名指したものではなく、それ自体原告の名誉を棄損するものではない、(二) 同(2)の「要職を個人に利して我田引水している」とは、原告が、①小畑商店からペット用品を買い入れたのに故意に代金を支払わなかったこと、②福岡薬品との間のワクチン売買に関し、故意に代金を支払わなかったこと、③昭和五九年一一月一一日開催予定のFCI四国インターナショナルの案内書中の案内図に自己が経営する愛犬荘の店舗の所在場所を目立つところに印刷して配付するなどしたことなどを根拠としたものであり、その他の事実についても、すべて取材に基づく真実の報道であり、名誉棄損の違法性はない。」を加える。

第三  当裁判所の判断

一  本件記事の内容が引用に係る原判決第二、一、3記載のとおりであることは当事者間に争いがないところ、本件記事の摘示する事実及びその表現は、原告に対する社会的評価、声望を低下させるに足りるものであることは明らかであり、本件記事の掲載は原告の名誉を棄損するものというべきである。

被控訴人は、控訴人が指摘する前記(一)の(1)は、一般論を述べたもので、特に原告を名指したものではない旨主張するが、それ以下の指摘事実とを併せ通読すれば、右部分も控訴人に関する論評であり、本件クラブの専務理事としての適格性を問題にしていることが明らかであるから、右部分を含めて本件記事全体として、控訴人の社会的評価、声望を低下させる記載であると認められる。

二  そこで、抗弁について判断する。

1  証拠(甲四、一二、乙一、二一の四、五、原審における控訴人(第一、二回)及び被控訴人(第一回)各本人尋問の結果)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一) 本件クラブは、各種畜犬の犬籍登録及び有能・優良犬の普及と畜犬の飼育の指導奨励を行い、広く国民の動物愛護の精神を高揚することを目的として設立された社団法人であり、血統保持のための登録、総合畜犬展覧会や訓練競技会の開催、諸外国との畜犬文化交流などの事業を行っている。

本件クラブは、畜犬愛好者を会員とし、四〇名以上の会員で構成する単位クラブ、これを統括する連合会、地域単位のブロック協議会などの組織を持ち、年一回開催される総会において理事(二〇名以上三〇名以下)の選任が行われ、理事の互選によって理事長、副理事長、専務理事の三役が選出される。

なお、昭和五九年一〇月当時の本件クラブの全国の会員数は六万二九五三名、単位クラブ数は一〇六〇、登録畜犬数は二十万余頭であり、四国の会員数は一七〇七名、単位クラブ数は四二であった。

(二) 控訴人は、昭和四三年ころに本件クラブに入会し、昭和四九年四国ブロック長、昭和五一年理事となり、昭和五四年から二期六年にわたり専務理事の地位にあったが、昭和六二年九月、理事を辞任するとともにそのころ本件クラブからも脱会した。

(三) 被控訴人は、本件クラブの会員で、昭和五三年三月から日本ペット振興会の名のもとにプロモーションを編集発行(月二〇〇〇部)し、日本名犬年鑑を刊行してきた。

(四) 本件記事は、畜犬業界においては、モラルの向上が年来の課題とされていたところ、本件クラブの専務理事である控訴人が役職を利用して恣意的に本件クラブへの入会を拒否したり、私利を計るなどのその地位に相応しくない不公正な行為があり、これらの行為が対抗関係にある日本社会福祉愛犬協会(KCジャパン)に本件クラブに対する攻撃の材料を与え、KCジャパンが全国規模の法人となるための許可申請の口実を与えているとして、控訴人を追及するとともに、本件クラブの組織のあり方を糺す趣旨のものである。

右事実によれば、被控訴人は、本件記事によって、公共性の強い社団法人である本件クラブの専務理事という要職についていた控訴人の不正行為ないしはクラブの幹部としてのモラルを批判し、役員の適格性がないものと論評したものであるから、本件記事は公共の利害に関する事実に係り、その掲載は、専ら公益を図る目的に出たものと認められる。

控訴人は、被控訴人との間で被控訴人の発刊する日本名犬年鑑への広告掲載をめぐって紛争があり、本件記事の掲載は、専らそのための意趣返しである旨供述(原審第一回)し、甲四八(陳述書)にも同趣旨の記載がある。なるほど、証拠(甲一ないし三の各一、二、乙九の一ないし三、乙三〇、三八の一、二、原審(第一回)及び当審における控訴人、原審(第一回)における被控訴人各本人尋問の結果)によれば、被控訴人は、前記日本名犬年鑑の一九八三〜一九八四年版に、控訴人の依頼により「有限会社愛犬荘 代表者村瀬正夫」名義で広告を掲載したとして、その掲載料三万八〇〇〇円を請求したところ、控訴人は、右広告の依頼はしておらず、被控訴人が無断でしたものであるとして右請求に応じなかったため紛争になったこと、被控訴人は、昭和五九年五月一〇日発行の第五八号及び同年六月一〇日発行の第五九号プロモーション紙上において、控訴人を名指しはしなかったものの本件クラブの役職者がモラルに反し、ペット用品の買掛代金や広告料の支払いを怠っている旨の記事を掲載し、続いて同年七月一〇日発行の第六〇号プロモーション紙上において、控訴人(村瀬正夫)にあて掲載料三万八〇〇〇円を直ちに支払うよう請求する旨の囲み記事を掲載し、続いて本件記事が掲載されたことが認められる。

右事実によれば、被控訴人が、本件記事を記載した動機として、右広告料の不払いに対する不満があった(控訴人が、被控訴人に対し当該広告の掲載を依頼したか否かはともかくとして)ことは否めないところであるが、本件記事及び前掲各号の記事を通読すると、その主たる目的は、控訴人の経済活動に対する疑問、役職者としての行き過ぎた行動に対する非難等を通じて、畜犬業界のモラルの向上を企図したものであることが明らかであるから、右控訴人の供述、記載はそのまま採用することはできない。

2  そこで、本件記事の内容が事実であったか否か、また、それが仮に真実でないとすれば、被控訴人においてこれを真実と信じる相当の理由があったか否かについて判断する。

(一) 証拠(甲一の一、二、甲一三、一四、一五の一、二、乙一四、三二の一、二、乙三三、原審(第一、二回)及び当審における控訴人、原審(第一回)及び当審における被控訴人各本人尋問の結果)によれば、小畑松夫の経営する小畑商店は、かねてから有限会社愛犬荘(控訴人)との間でペット用品の売買取引をし、同社に対し昭和五七年六月分の売掛残代金及び同七月分の売掛代金合計三二万六六八〇円の債権を有し、度々その支払を請求していたが、控訴人は、納入された商品が不良品であり、加えて、愛犬荘と競合する他者との取引はしないとの特約があったにもかかわらず、他社と取引したとして支払いを拒否したこと、これに対し小畑松夫は、昭和五九年六月二五日付けで、本件クラブあてに、控訴人から、四国地区のKCジャパンを壊滅させるためその会員になっているペットショップと商品取引をしないよう指示されたが、これを拒否したところ、取引停止とそれまでの売掛金の支払いをしてくれないとの上申書を提出するとともに、右上申書の写しを被控訴人あてに送付したこと、被控訴人は、右書面と小畑に対する直接の取材により、他社と取引をしないことを特約させた控訴人の行為は独占禁止法に触れるものであり、これを理由とする買掛金の不払いは、本件クラブの役職者であることを利用し、圧力をかけて自己の利益を計ったものであるとして、その旨の記事を掲載したこと、右の事実については控訴人から取材したことは全くないことが認められる。

しかしながら、右当事者間の具体的な契約内容は明らかではなく、また控訴人が本件クラブの役職者であることを利用し、圧力をかけて買掛金を不払いにし自己の利益を計ったと認めるに足りる証拠はない。

(二) 証拠(甲一六、一九の一ないし六、甲二八ないし四〇、四一の一ないし一〇、乙二六、二七、二八の一、二、原審証人福岡正己の証言、原審(第二、三回)及び当審における控訴人、原審(第一回)及び当審における被控訴人各本人尋問の結果)によれば、福岡正己が経営する有限会社福岡薬品と福岡ブラシは昭和五〇年ころから、控訴人が経営する愛犬荘や「株式会社」を自称していたプリンスペット用品との間で、薬品やペット用品の取引をしていたが、昭和五七年一二月ころ、その取引を中止したこと、右取引の終了に当たっては、昭和五七年一二月一六日、控訴人が福岡正己に対し福岡薬品と福岡ブラシの愛犬荘及びプリンスペット用品に対する売掛残代金六万九九一〇円を支払って清算済みとなったこと、ところが、福岡正己は、昭和五八年九月に徳島市において開催されたドッグショーの会場で飲酒酩酊の上控訴人に暴力を振るおうとして制止されたことがあり、たまたまこれを目撃した被控訴人は、右福岡から取材し、福岡が売ったワクチンについての売掛代金が未払いになっているとの話を聞き、本件記事を掲載したこと、右未払の事実について控訴人から取材したことは全くないことが認められる。原審において福岡正己は、愛犬荘及びプリンスペット用品に対し、二〇万円を超える債権が残存していると供述し、乙二八の二(被控訴人代理人からの問い合せについての回答書)には、少なくとも二一万〇三八〇円の債権を有している旨記載がある。しかし、右福岡の供述はすこぶる曖昧であり、前記回答書の記載も、その根拠とする帳簿(乙二六)は昭和五六年の取引を記載したものであることが明らかである(同帳簿が昭和五六年のものであることは甲四一の一ないし一〇と対比して明らかである。)のに、あたかも昭和五七年一二月現在のものとしているなど、到底信用することができない。

(三) 証拠(甲一一、乙二一の六ないし九、原審(第二回)及び当審における控訴人、原審(第一回)における被控訴人各本人尋問の結果)によれば、控訴人は、昭和五九年一一月一一日開催予定の「JKC1984・FCI四国インターナショナル」の案内書中の案内図に自己が経営する愛犬荘の店舗の所在場所をその名とともに目立つところに印刷し、出陳申込所となる展覧会事務所欄にも他は全てクラブ連合会事務局名を掲載しているのに殊更、控訴人の主催する「JKC愛媛県中予ドッグクラブ」の名前を掲載したこと、そのため、本件クラブは、右のような記載は控訴人の個人の宣伝となり、公的な印刷物として不適当であるとして是正を求め、四国ブロック協議会も直ちにこれを修正したことが認められる。

(四) 証拠(甲二九、三〇、三二、三三、乙四の一、二、原審(第二回)及び当審における控訴人本人尋問の結果)によれば、控訴人は、前記愛犬荘を経営するとともに、ペット用品の卸売部門の独立を考え、「プリンスペット用品株式会社」の名称を用いて宣伝、取引をしていたが、法人格取得の手続きはしないままであったこと、右プリンスペット用品に関して控訴人が手形の不渡りを出したり、これが倒産したりしたことはなかったことが認められる。右認定に反する原審証人福岡正己、同鶴井千代子の証言はたやすく採用できない。

また、右プリンスペット用品(または愛犬荘のペット用品部門)につき買掛金の未払分が残存しているとの事実を認めるに足りる証拠はない。被控訴人は原審(第二回)において、数社から取材し、未払金がある感じを持った旨供述するが、推測の域を出ず、採用の限りでない。

(五) 証拠(甲二〇、二一の一、二、甲二二の一ないし一二、原審証人鶴井幸章の証言、原審(第一、三回)及び当審における控訴人、原審(第一、二回)及び当審における被控訴人各本人尋問の結果)によれば、鶴井幸章は、昭和五七年はじめころ、控訴人から畜犬の繁殖を勧められ、愛犬荘との間で、鶴井は愛犬荘から繁殖のための成犬を買い入れ、これらの犬を繁殖させ、小犬を愛犬荘に売り渡す旨の専属売買契約を締結したこと、ところが、控訴人が当初話していたほどに利益があがらず、他の業者から、控訴人から買い入れた成犬は値段相当の値打ちのある犬ではないなどと言われたこともあって、昭和五八年六月ころ、鶴井は繁殖を断念し控訴人との取引を打ち切り、子の鶴井博敏が開店したペットショップで独自に販売するようになったこと、鶴井は右畜犬の繁殖事業によって多額の負債が発生し、そのため、右事業を勧誘した控訴人に対し悪感情を抱いていたことが認められる。

右事実によれば、前記契約を履行しなかったのはむしろ鶴井の方であり、他に、控訴人が一方的に前記の契約を破棄して鶴井に対し損害を与えたとか、鶴井を欺罔して自らの利益を図ったとかの事実を認めるに足りる証拠はない。

(六) 次に、証拠(甲一五の一、二、甲四七、乙一九、原審(第一ないし三回)及び当審における控訴人、原審(第一、二回)及び当審における被控訴人各本人尋問の結果)によれば、控訴人は、昭和四六年ころ、愛犬荘で売ったミニチュアーピンシャーを顧客から頼まれて、福山市の訓練士千神徹に訓練を依頼したこと、千神は、約六ヵ月の訓練を終えて松山市の依頼主のところに船便で送り返したが、輸送途中で右の犬が行方不明になり、送り主である千神と輸送にあたった石崎汽船との間で損害賠償の話し合いがなされ、そのころ、石崎汽船が荷主に対し二〇万円を支払うことで解決したこと、右折衝の過程で、当該犬を売った控訴人の許に石崎汽船の担当者が売値等の調査に来たことが認められる。

また、証拠(甲二三、二四、原審(第三回)及び当審における控訴人本人尋問の結果)によれば、控訴人は、昭和五七年九月ころから、福吉司志を雇用していたが、同人が集金の金を私用していたことが発覚し、その金額を弁償する旨約束させたことが認められる。

しかしながら、前者については、賠償の交渉に関与した事実すら明らかでないし、後者については、従業員が私用した金銭の賠償を求めるのは当然であり、いずれについても、控訴人が脅迫まがいの手法を用いて損害賠償金を不当に取得したと認めるに足りる証拠はない。

(七) 証拠(甲一四、乙二の一、四の二、乙一三)によれば、控訴人が「加藤正夫」、「村瀬正夫」等の通称を使用し、愛犬荘の登記簿に役員名には、婚姻前の姓の「引口孝司」のまま登記を訂正していないことが認められる。しかしながら、控訴人が、取引を混乱させ利益を図るためにこれらの通称等を使用したと認めるに足りる証拠はない。

(八) その他、控訴人が、要職にあることを誇示し、地域に君臨し、意に添わぬものを疎外し、本件クラブへの入会を故意に認めなかったとの事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

以上の認定事実によれば、被控訴人は摘示する控訴人の行為のうち、小畑商店に対する買掛金の不払の事実、及び、FCI四国インターナショナルの案内書中の案内図に自己が経営する愛犬荘の店舗の所在場所を目立つところに印刷して配付するなどした事実は認められるが、前者についてはその地位を利用して理不尽に支払いをしないとまでは認められず、後者にしても、勧告により直ちにこれを是正したのであり、その余の部分についてはいずれも真実であることの証明はないから、被控訴人が主張する事実の主要部分について真実性の証明がないといわざるを得ない。

更にまた、控訴人は、真実でない部分があったとしても、真実と信ずる相当の理由があった旨主張するが、前記認定の事実に加え、原審(第一ないし三回)及び当審における控訴人、原審(第一、二回)及び当審における被控訴人各本人尋問の結果)によれば、被控訴人は、前記摘示事実の多くは単なる風評を手掛かりに、控訴人と対立する一方当事者のみに取材し(控訴人に対するそれは全く行われていない。)、事実に対する検証も十分とは認め難いのであって、これらの事実を総合すると、前記各事実が真実であると信じるについて相当の理由があるとは到底認められない。被控訴人は、本件クラブの事務局長にも取材し、同人の証言によってもこれらの事実が裏付けられる旨主張するが、原審証人池内好雄の証言も控訴人に関する風評を耳にしたとか、二、三の投書があった旨供述する程度であり、十分な取材とはいい難い。

そうとすると、被控訴人の抗弁は採用できず、被控訴人は控訴人に対し、不法行為責任を免れ得ない。

三  そこで、慰謝料等の額について判断する。

本件記事の内容、プロモーションの発行部数、その他本件に表れた一切の事情を総合すると、控訴人が本件記事の掲載によって受けた精神的苦痛を慰謝するものとしては二〇万円が相当であり、控訴人の名誉回復の措置としては、本件記事を掲載したプロモーション紙に別紙記載の謝罪広告を、同別紙記載の掲載条件で一回掲載させるのが相当である。

第四  結論

以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求は、被控訴人に対し、損害賠償として二〇万円及びこれに対する本件不法行為の後であることが明らかな昭和六〇年八月一一日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払い、並びに、民法七二三条の名誉回復措置として、被控訴人に対し、前記説示の謝罪広告を求める限度において理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却されるべきである。

よって、控訴人の請求を全部棄却した原判決は一部不当であるから、これを取り消し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官上野利隆 裁判官渡邊貢 裁判官田中観一郎)

別紙謝罪広告

昭和五九年九月一〇日発行のプロモーションニューズ一〇月号のフォーラム欄に、貴殿をトラブルメーカーだとし、その役職を利用して我田引水をしている、経営している会社を倒産させて仕入先に多大の負債を残している、恐喝まがいの手法で損害金を支払わせている、大阪の薬品販売会社に代金の支払いをしない、複数の氏名を駆使して支払うべき代金の支払いを拒んでいるなどと真実に反する記事を掲載し、貴殿の名誉と信用を傷つけたことは申しわけありませんでした。ここに謹んでおわび致します。

平成 年 月 日

プロモーションニューズ編集兼発行人

森下濤翔こと

森下千尋

松山市北藤原町〈番地略〉

村瀬孝司殿

掲載条件

一 掲載場所 プロモーションニューズのフォーラム欄

二 使用する活字等 見出し及び控訴人、被控訴人の氏名は五号活字、本文その他は六号活字、横書

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例